ピータ・シェファー『アマデウス』

My favorite 99 books

アマデウス

『アマデウス』AMADEUS, 1979
江守徹訳 劇書房 1984/2002
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、1791年貧困と不遇のうちに死ぬ。それから32年後のウィーン、サリエリがモーツァルトを暗殺したという噂が流れる。その真相は?傍若無人に振舞う自然児モーツァルト。その人物には嫌悪しながらも、その音楽には圧倒されるサリエリ。けだものの創った神の音楽。凡庸な才能ながら、宮廷第一の音楽家として成功し、望みうる全てを手に入れたサリエリ。輝くばかりの才能にめぐまれながら、天才音楽家として、破滅の道をつきすすむモーツァルト。二人はいわば一つのものを分け合った存在である。そしてお互いがお互いを滅し合う。
1984年のアカデミー賞で8部門を獲得した映画『アマデウス』の原作(戯曲)である。 映画版の脚本も原作者シェファーが担当している。
 シェファー作品の多くに共通しているのは“人間と神の闘い”である。 神に愛された者・崇高なる存在・純粋な者に対する、凡人の燃えるような嫉妬と葛藤と破壊の物語であるといえる。 この作品の中で、サリエリはモーツァルトの楽曲に“神の声”を聴き、激しい嫉妬を覚える。 モーツァルトの天才に嫉妬するのではない。 自分がすべてを捧げて仕える神が、その自分ではなく、モーツァルトを愛し、彼にその御声を与えたからだ。 そしてサリエリだけが、モーツァルトの天才を本当の意味で理解し、その楽曲の中に神の御声を聴くことができるのだ(初演当初、モーツァルトの楽曲は理解されなかった)。 この残酷な運命は、サリエリの嫉妬を激しい憎悪に変えていく。
「お前は不公平だ――敵だとも! 今からお前のことをこう呼ぼう――永遠の敵と! 誓ったぞ、私の命が尽きる迄、私はできる限り、この地上でお前を妨害してやる!」
サリエリの神に対する憎悪は、モーツァルトへの殺意へと変わっていく。
 終盤、サリエリは死の床にあるモーツァルトの作曲を手伝い、その“神の声”を現世に書き留める行為を共有する。 映画ではこの体験によって、サリエリの内に秘めた激しい嫉妬と陰険な謀略性が昇華されてしまったように見える。 しかし原作の戯曲版でのサリエリは違う。 恐ろしいまでに破壊的で、醜いまでに嫉妬心を剥き出しにし、モーツァルトを死の淵に追い詰める。
「……死ぬのだ、アマデウス! 死んでくれ、頼む、死んでくれ……! 私をそっとしといてくれ、お願いだ! もう私をほっといてくれ! 構わないでくれ!」
この部分があってこそ……と思う。 映画版の不満な部分のひとつ。
 あと時間軸として、映画版は戯曲の展開そのままの映像化ではない。 映画版の衝撃的なオープニングは、実は原作戯曲版の“続編”なのである。 これは、(戯曲を)読んで(または芝居を観て)、(映画を)観れば、わかる。 すごい仕掛けで、上手い、と思った。

映画版

アマデウス ディレクターズカット [Blu-ray]

「アマデウス」AMADEUS, 1984
監督:ミロス・フォアマン、原作・脚本:ピーター・シェファー、撮影:ミロスラフ・オンドリチェク、音楽:ネヴィル・マリナー
出演:マーレイ・エイブラハム、トム・ハルス、エリザベス・ベリッジ



Bibliography

The Salt Land, 1954
Balance Of Terror, 1957
The Prodigal Father, 1957
Five Finger Exercise, 1958
The Public Eye, 1962
The Private Ear and The Public Eye, 1962
The Establishment, 1963
The Merry Roosters Panto, 1963
The Royal Hunt of the Sun, 1964
「ザ・ロイヤル・ハント・オブ・ザ・サン」
伊丹十三訳 劇書房 1985


Black Comedy/White Lies, 1967
「ブラック・コメディ」
倉橋健訳 劇書房 1982


The Battle of Shrivings, 1970
Equus, 1973
「エクウス EQUUS〈馬〉」
倉橋健訳 テアトロ 1985


Amadeus, 1979
「アマデウス」
江守徹訳 劇書房 1984/2002
⇒“My favorite 99 books”

Black Mischief, 1983
Yonadab, 1985
Lettice and Lovage, 1987
「レティスとラベッジ」
黒田絵美子訳 論創社 1998

This Savage Parade, 1987
Whom Do I Have The Honour Of Addressing?, 1990
The Gift of the Gorgon, 1992