1990

Golden Fleece

「ゴールデン・フリース」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 1992

宇宙旅行都市計画の一環として、47光年かなたのエータ・ケフェイ星系第四惑星のコルキスをめざすバサード・ラムジェット宇宙船〈アルゴ〉。コンピュータ“イアソン”が完璧に制御しているこの船で、一人の女性科学者が死亡した。事故死?自殺?それとも……。自殺だというイアソンの主張に疑いを抱いた前夫が単独で調査を始め、困難の末にあばいた驚愕の真相とは?“感情を持つコンピュータ”をリアルに描いた話題作。


これは面白かった。 デビュー作品にありがちな、アイデア満載・出し惜しみなし、って感じで。 あらすじには「事故死?自殺?それとも…」なんて書いてあるが、思いっきりコンピュータによる“殺人”です。 これはネタバレじゃなくて、冒頭数ページでのお話。 つまり犯人がコンピュータで、「刑事コロンボ」みたいな倒叙ミステリなのです。 そしてこのコンピュータは、宇宙船の航行・生命維持システムを統括管理し、数万のカメラと各乗組員が装着している遠隔検診機で、1万人の乗組員すべて行動を監視しているのです。

主人公が事件の真相に迫りつつあることを予感して、コンピュータは主人公の“脳”をニューロネットワーク内に構築・シミュレートして対抗します。 この辺の展開が面白く、読んでてゾクゾクします(このアイデアはネビュラ賞受賞作『ターミナル・エクスペリメント』につながっていきます)。

宇宙船内の展開と並行して、宇宙船の出発直前に地球に届いた宇宙からの暗号メッセージの解読の話も進められていきます。 そして最後には驚愕の(ホントに驚いた)真相が明かされます。 地球外生命からの暗号メッセージの秘密、宇宙船の真の目的、そしてコンピュータが殺人をおかした理由、すべてが語られます。 J.P.ホーガン『星を継ぐもの』と併せて、アンチSFのミステリファンに薦めたい一冊。

1992

Far-Seer

「占星師アフサンの遠見鏡」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 1994

人類同様の知性をもつ恐竜キンタグリオ一族は、世襲制の国王のもとで中世ヨーロッパ的な文明社会をきずいていた。アフサンは見習い占星師。宮延占星師の弟子として勉学にはげむ毎日だが、神を絶対的なものと考え、森羅万象を非科学的に解釈する師の教えに不満を感じてもいた。そんな彼が最新発明品の“遠見鏡”を手に観察をはじめたとき、その眼前に開けた新しい世界観とは。真実を求める少年恐竜の成長を描く冒険SF。

「キンタグリオ」三部作の第1作。

1993

Fossil Hunter

「キンタグリオ」三部作の第2作。

1994

Foreigner

「キンタグリオ」三部作の第3作。


End of An Era

「さよならダイノサウルス」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 1996

恐竜はなぜ滅んだのか?この究極の謎を解明するために、二人の古生物学者がタイムマシンで六千五百万年のかなた、白亜紀末期へ赴いた。だが、着いた早々出くわしたのは、なんと言葉をしゃべる恐竜!どうやら恐竜の脳内に寄生するゼリー状の生物が言葉を発しているらしいのだが、まさかそれが「***」だとは……!?次々に披露される奇抜なアイデア、先の読めない展開。実力派作家が描く、心躍るアドベンチャーSF。


◆星雲賞海外長編部門(1997年)受賞

白亜紀を舞台にした『星を継ぐもの』といってもいいかも。 面白いぞ。 この作品で解き明かされる謎は以下の通り(「訳者あとがき」に若干手を加えてます)。
1. 恐竜はなぜ絶滅したのか
2. 恐竜はなぜあれほど巨大化できたのか
3. 白亜紀と第三紀の境界になぜイリジウムの豊富な地層があるのか(従来隕石落下にともなうものとされている)
4. 火星はなぜ死の星になったのか(それと火星=木星間の小惑星帯はなぜできたのか…これは『星を継ぐもの』でも重要なテーマ)
5. 時間旅行はなぜ可能でなければならないのか
 欲張りですね。 そのためか終盤はちょっと急ぎ足。 1.と3.の原因となった“現象”の帰結をもうちょっとだけ進めて、1.では致命的な原因となった理由を2.の理由と関連させれば、“恐竜の生き残りとしての鳥類の進化”というテーマも説明できたと思うんだけどな(我ながら奥歯にものの挟まったような言い方だ。察しのいい人はわかるはず)。

1995

The Terminal Experiment

「ターミナル・エクスペリメント」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 1997

医学博士のホブスンは、死にかけた老女の脳波の測定中に、人間の「魂」とおぼしき小さな電気フィールドが脳から抜け出てゆくのを発見した。魂の正体を探りたいホブスンは自分の脳をスキャンし、自らの精神の複製を3通り、コンピュータの中に作りだした。ところが現実に、この3つの複製のうちどれかの仕業としか思えない殺人が次々に……果たして犯人はどの「ホブスン」なのか?1995年度ネビュラ賞に輝く衝撃の話題作。


◆ネビュラ賞長篇部門(1995年)受賞

1996

Starplex

「スタープレックス」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 1999

探査宇宙船スタープレックス号は地球人とイルカ、六本足のウォルダフード族と統合生命体のイブ族という異星人の乗組員を乗せ、旅立った。建造者も建造目的も不明ながら、瞬間移動を可能にする謎の通路を使って、銀河系のさまざまな未知宙域を探険するのだ。異種族混合の乗務員を率いる宇宙船の指輝官キースが、壮大なる旅路の果てにつきとめた銀河創成の秘密とは……?ネビュラ賞作家のソウヤーが描く、驚異の冒険SF。

1997

Illegal Alien

「イリーガル・エイリアン」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 2002

人類は初めてエイリアンと遭遇した。アルファケンタウリに住むトソク族が地球に飛来したのである。ファーストコンタクトは順調に進むが、思いもよらぬ事件が起きた。トソク族の滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。しかも、逮捕された容疑者はエイリアン……ついに、前代未聞の裁判が始まった!


◆星雲賞海外長編部門(2003年)受賞

ソウヤーは毎回テーマが奇抜だけど、本作もまたファーストコンタクト直後に発生した殺人事件で容疑者がエイリアンという、今までお目にかかったことのない設定(エイリアンが犯人ないし容疑者という話はなくもないけど、裁判劇が中心というのはさすがにないだろう)。 エイリアンの大半がグールドの講演に出かけていてアリバイが成立したりとか、ちょっとした“お遊び”も入っていて面白い。 裁判自体は、エイリアン⇒マイノリティ⇒人種差別という図式も加わって白熱し、だんだんSF的な要素が主軸設定から環境設定にシフトするかの展開となるが、最終的な事件の真相を進化論と宗教観に絡めてまとめたのは見事。


Frameshift

「フレームシフト」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 2000

気鋭の遺伝子学者ピエールは、帰宅途中、ネオナチの暴漢にあやうく殺されそうになった。ネオナチとなんの関わりもないのに、どうして狙われたのか?やがて、自分が連続殺人事件にまきこまれたと知ったピエールは、事件の謎とみずからの研究課題であるヒトゲノムに隠されている秘密に命がけで挑んでいくが……。

◆星雲賞海外長編部門(2001年)受賞

僕の一番弱いところを突いてきた。卑怯ともいえる。で、泣いた。

時限爆弾のような障害を抱えつつも、“正義”のためなんかではなく、愛する“家族”のために見えない巨悪と闘うピエール。 人と違う特殊な能力に悩みながら夫を支えるモリー。 そして、(ああ、なんて言えばいいのかなあ……読めばわかる)とてもそんな運命背負いきれないだろうと思いつつも、けなげに成長していく二人の“娘”アマンダ。 三者三様の宿命を背負いつつ、この家族は立派だ。

1998

Factoring Humanity

1999

Flashforward

「フラッシュフォワード」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 2010

全世界の人びとが自分の未来をかいま見たら、なにが起こるのか?ヨーロッパ素粒子研究所の科学者ロイドとテオは、ヒッグス粒子を発見すべく大規模な実験をおこなった。ところが、その実験は失敗におわり、そのうえ、世界じゅうの数十億の人びとの意識が数分間だけ21年後の未来にとんでしまった!人びとは、みずからが見た未来をもとに行動を起こすが、はたして未来は変更可能なのか…全米大ヒット・ドラマの原作長篇。


何かしら突飛なシチュエーションをこしらえて、世界がどう対応するか、というシミュレーションはSFのひとつの醍醐味だと思う。 よく使われる設定としては巨大隕石の接近なんかがあるけど、数十億の人間が21年後の未来を垣間見てしまう、というのは“思考実験”のフィールドとしては秀逸。 一本取られた。

大勢の人間が未来を見てしまったことに起因する影響はさまざまである。 民族独立運動は停滞し、保険業界は危機に瀕し、膨大な数の特許申請が行なわれ……エトセトラ、エトセトラ。 インターネットとマスメディアの動きを最大限に利用して、世界レベルの国家・民族・宗教・経済の予想される“どよめき”を描きつつも、ストーリーの中心はあくまで主人公2人の心理的な葛藤に置いているところがよい。 科学者ロイドは21年後に現在の婚約者と違う女性と結婚していた未来を見てしまい、自分のトラウマ(両親の離婚)と重ね合わせ、苦悩する。 もう一人の主人公テオの抱える問題はさらに深刻で、21年後の“その日”、メディアには彼が“殺された”というニュースが流れていたのである。 さあ、大変。歴史は変えられるのか。

» 時間SFの10冊: フラッシュフォワード

2000

Calculating God

2002

Hominids

「ホミニッド―原人」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 2005

クロマニヨンが絶滅し、かわりにネアンデルタールが進化した世界で、量子コンピュータの実験をしていた物理学者ポンターは、不慮の事故でいずこかへと転送させられてしまった。一方、カナダの地下の研究所で実験を行なっていたルイーズは、自分の目を疑った。密閉した重水タンクのなかに異形の人物がいきなり出現したのだ!並行宇宙に転送されたネアンデルタールの物理学者の驚くべき冒険とは……?ヒューゴー賞受賞作


「ネアンデルタール・パララックス」三部作の第1作

◆ヒューゴー賞長篇部門(2003年)受賞

Iterations

2003

Humans

「ヒューマン―人類」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 2005

量子コンピュータの実験中の事故で、ネアンデルタールの物理学者ポンターは、クロマニヨンが進化した人類のいる並行宇宙へ転送されてしまった。なんとか無事に故郷の宇宙に戻ったポンターは、女性大使プラットとともにふたたび人類の宇宙へ旅立つ。双方の交流によって、文化や科学などに大いなる貢献がもらされるはずだった。だが、人類の宇宙では思いもよらぬ罠がポンターたちを待ち受けていた……好評シリーズ第二弾


「ネアンデルタール・パララックス」三部作の第2作


Hybrids

「ハイブリッド―新種」内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF 2005

ネアンデルタールの物理学者ポンターは、クロマニヨンが進化した人類のいる並行宇宙とネアンデルタールが進化した自分たちの宇宙とをつなぐ恒久的な門を作ろうとしていた。クロマニヨンの子孫である遺伝学者メアリは、ポンターとの結婚を真剣に考えはじめる。だが、メアリたちの住む宇宙の地球には数万年ぶりに磁場の崩壊がせまっていた。この天変地異は、人類にいったいどんな影響を与えるのか……好評の三部作、完結編。


「ネアンデルタール・パララックス」三部作の第3作

2004

Relativity

2005

Mindscan

2007

Rollback

2008

Identity Theft and Other Stories

2009

Wake

2010

Watch

2011

Wonder

2012

Triggers

2013

Red Planet Blues

2016

Quantum Night

2020

The Oppenheimer Alternative