ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』

My favorite 99 books

アルジャーノンに花束を

『アルジャーノンに花束を』
小尾芙佐訳 早川書房
32歳になっても、幼児の知能しかないチャーリイ・ゴードンの人生は、罵詈雑言と嘲笑に満ちていた。昼間はパン屋でこき使われ、夜は精薄者センターで頭の痛くなる勉強の毎日。そんなある日、彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の偉い先生が、頭をよくしてくれるというのだ。願ってもないこの申し出に飛びついたチャーリイを待っていた連日の苛酷な検査。検査の競争相手は、アルジャーノンと呼ばれる白ネズミだ。脳外科手術で超知能をもつようになったアルジャーノンに、チャーリイは奇妙な親近感を抱きはじめる。やがて、脳外科手術を受けたチャーリイに新しい世界が開かれた。だが、その世界は、何も知らなかった以前の状態より決してすばらしいとは言えなかった。今や超知能をもつ天才に変貌したチャーリイにも解決しがたいさまざまな問題が待ちうけていたのだ。友情と愛情、悲しみと憎しみ、性、科学とヒューマニズム、人生の哀歓を、繊細な感性で描きだす感動の1966年度ネビュラ賞長篇部門受賞作。
 僕は登場人物の“けなげ”な行動に弱い。 がんばってもがんばっても自分のせいではないのに不幸だったり,わくわくしながら準備したのにうまくいかなかったり,ずーっとずーっと待ってたのに待ってたものがこなかったり,そんな場面にであうと,もうダメ(だから「フランダースの犬」にもイチコロ)。 そして,チャーリイ・ゴードンは“けなげ”だ。 他人と同じようにしようとしてもなかなかうまくいかない,みんなが自分を笑うのを見て「楽しいんだ」と思って自分も笑う。 そしてもっともっと“かしこくなりたい”と思い続けている。 かしこくなって,いろんなことを,他の人たちと同じようにしたいと考え続けている。 そして,頭がよくなって,(実際には自分を捨てた)家族に会う日を楽しみにしている。 もうダメだ。
 チャーリイ・ゴードンはまだ実験段階である知能向上を目的とした手術を受ける。 そして手術は成功し,少しずつではあるけれども知能が向上していく。 知能が向上して“覚えること”や“理解すること”が出来るようになり,彼にとって新鮮な“知識”が次々に目の前に現れる。 彼は“知る喜び”に満たされていく。
 チャーリーの知能はさらに進み,ほどなく手術を施した教授たちをも凌駕するようになる。 次第にチャーリーは,知識に満たされることに反比例するように,疎外感を感じるようになる。 知能が低かった時には十分な理解がなかったとはいえ,感じることがなかった孤独である。 そして傷つくことになる。
 チャーリーは知能が低かった時に,“賢くなる”ことを強く願っていた。 でもそれは決して自己満足のためなどではなく,親方に言われたことを理解したい,友達を同じことををしたい,家族に会って自分を認めて欲しい…… チャーリーが望んでいたのは“知能”ではなく,人に自分の方を向いてもらうことだったんだと思う。 チャーリーは恋もする。 しかし,自分を見つめているもうひとりの自分に気がつき,愛という理屈では説明できない感情にも戸惑ってしまう。 読んでいて切なくなる。 愛されることを誰よりも望んでいるのに,それがかなわない。
 チャーリーと前後して同様の手術を受けたアルジャーノンというネズミがいる。 アルジャーノンはチャーリーと同じく飛躍的に知能を向上させたけれど,次第に情緒不安定になり,いつしかその行動に凶暴性が見られるようになり,ついに死んでしまう。 そしてチャーリーは自分の未来をそこに見出してしまうことになる。
 静かで,そして悲しい結末である。 最後の1行はどうもね,なんていうかな,ああ,もうダメ。 文庫版が出ているけれど、できれば単行本の方を読んでもらいたい。 残念なことに文庫版の最後の1行が、見開きページの最後の1行に重なってしまった。 次のページがあるのかな、と思ってめくってしまえば、感動は半減してしまうだろう。 最後の1行と、その後の空白に、僕は泣いた。


Biography

Bibliography

1966

Flowers for Algernon

アルジャーノンに花束を

「アルジャーノンに花束を」
小尾芙佐訳 早川書房(1988)/ダニエル・キイス文庫(1999)
32歳になっても、幼児の知能しかないチャーリイ・ゴードンの人生は、罵詈雑言と嘲笑に満ちていた。昼間はパン屋でこき使われ、夜は精薄者センターで頭の痛くなる勉強の毎日。そんなある日、彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の偉い先生が、頭をよくしてくれるというのだ。願ってもないこの申し出に飛びついたチャーリイを待っていた連日の苛酷な検査。検査の競争相手は、アルジャーノンと呼ばれる白ネズミだ。脳外科手術で超知能をもつようになったアルジャーノンに、チャーリイは奇妙な親近感を抱きはじめる。やがて、脳外科手術を受けたチャーリイに新しい世界が開かれた。だが、その世界は、何も知らなかった以前の状態より決してすばらしいとは言えなかった。今や超知能をもつ天才に変貌したチャーリイにも解決しがたいさまざまな問題が待ちうけていたのだ。友情と愛情、悲しみと憎しみ、性、科学とヒューマニズム、人生の哀歓を、繊細な感性で描きだす感動の1966年度ネビュラ賞長篇部門受賞作。
ネビュラ賞長篇部門(1966年)受賞
野田昌宏『SFを極めろ! この50冊』
アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫) アルジャーノンに花束を [英語版ルビ訳付] 講談社ルビー・ブックス アルジャーノンに花束を―原書で愉しむ 戯曲 アルジャーノンに花束を
アルジャーノンに花束を リバースエディション [DVD] Movie「まごころを君に/アルジャーノンに花束を」Charly, 1968(米)
監督:ラルフ・ネルソン、脚本:スターリング・シリファント
出演:クリフ・ロバートソン、クレア・ブルーム
アルジャーノンに花束を [DVD] TVM「アルジャーノンに花束を」DES FLEURS POUR ALGERNON, 2006(フランス・スイス)
監督・脚本:ダヴィド・デルリュー、脚本:アンヌ・ジアフェリ
出演:ジュリアン・ボワッスリエ、エレーヌ・ドゥ・フジュロール、マリアンヌ・バスレール
アルジャーノンに花束を DVD-BOX TV「アルジャーノンに花束を」 2002
出演:ユースケ・サンタマリア、菅野美穂、吉沢悠、中島知子

1968

The Touch

タッチ (ダニエル・キイス文庫 15)

「タッチ」
秋津知子訳 早川書房(2005)/ダニエル・キイス文庫(2010)
結婚4年目の若い夫婦バーニーとカレンは不妊に悩んでいた。カウンセリングを受けるが成果はなく、二人の仲はぎくしゃくしたものになっていく。そんな時、バーニーの勤務先で放射能事故が発生する。会社の発表によれば、汚染は最小限にとどまり大惨事は防がれたというが、事故から数週間後、バーニーとカレンの体には吐き気やめまいなどの奇妙な異変が…。しかもこの最悪の時期に、カレンの妊娠が判明する。はたして、胎児に放射能の影響はあるのか?夫婦はこの子に生を与えるべきか?―突然の災厄に翻弄される夫婦が経験する、愛の崩壊と再生の軌跡を描きあげた衝撃作。

1980

The Fifth Sally

五番目のサリー〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

「五番目のサリー」
小尾芙佐訳 早川書房(1991)/ダニエル・キイス文庫(1999)
茶色の目と髪、いつも地味な服を着ているサリー・ポーターは、ニューヨークで働くごく平凡なウエイトレス。だが、彼女には人に言えない悩みがあった。子供のときから、ときどき記憶喪失におちいるのである。それが原因で仕事も長続きせず、結婚も破局をむかえた。じつはサリーの心のなかには、あと四つの人格がすんでいたのだ――。サリーに起こったことはなんでも知っているブロンドで青い目の楽天家デリー、長い黒髪の教養あふれる画家のノラ、赤毛でいつも厚化粧、歌やダンスが得意で女優志望のベラ、すべての男を憎んでいる乱暴者、黒い服しか着ないジンクス。サリーは自分に耐えられない事件にでくわすと、無意識のうちにこの四つの人格にスイッチしてしまう。それがサリーの記憶喪失の原因だったのだ。ある事件のため、病院に運びこまれたサリーは長年にわたる記憶喪失の悩みをついにうちあけ、精神科医ロジャーの治療を受けるのだが……。ネビュラ賞受賞作『アルジューノンに花束を』であらゆる読者を魅了したキイスが、五重人格のサリー・ポーターの心の軌跡を鮮やかに描く傑作長篇。

1981

The Minds of Billy Milligan

24人のビリー・ミリガン〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

「24人のビリー・ミリガン」
堀内静子訳 早川書房(1992)/ダニエル・キイス文庫(1999)
1977年、アメリカ、オハイオ州で、連続強姦事件の容疑者としてビリー・ミリガンという青年が逮捕された。しかし彼には犯行の記憶がまったくなかった。実は彼の内部には、ビリー本人を含め、何と24もの人格が存在していたのだ。性格だけでなく、知能、年齢、国籍、性別さえ異なると称するこれらの人格たち。彼らはなぜ生まれたのか。一貫した意識を奪われ、何度も自殺を試みるほど精神的に追いつめられたビリーは、どのように混乱をのりこえていくのか。そして裁判のゆくえは……。脳に障害をもつ青年を主人公にした『アルジャーノンに花束を』で圧倒的な支持を得たダニエル・キイスが、多重人格という驚異の世界を描いた傑作ノンフィクション。

1986

The Milligan Wars

ビリー・ミリガンと23の棺〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

「ビリー・ミリガンと23の棺」
堀内静子訳 早川書房(1994)/ダニエル・キイス文庫(1999)
1977年にオハイオ州で連続強姦犯として起訴されたビリー・ミリガンは、精神異常のため無罪となり、1979年、最重警備施設である州立ライマ精神障害犯罪者病院へと移送された。だがそこは、体罰に電気ショック療法を用い、薬物で患者を廃人にしてしまう恐るべき場所だった。筆記用具の使用を禁じられたビリーは、シーツをほぐした糸で文字をつくり、ライマ病院の内部での出来事を作家ダニエル・キイスに書き送った。人格たちの統合は崩れ、交渉術に長けたアレン、反社会的な少年トミー、犯罪者のケヴィンなどの別人格が交互に現われ、「憎悪」の管理者であるレイゲンが主導権をにぎるようになった。混乱の時期をむかえたビリーに救いの日はおとずれるのか。『24人のビリー・ミリガン』につづき、巨匠キイスが、多重人格者ビリーの波欄にみちたその後の生涯を精神病棟を舞台に描いた待望のノンフィクション。

Unveiling Claudia

クローディアの告白〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

「クローディアの告白 -ある分裂病患者の謎」
秋津知子訳 早川書房(1995)/ダニエル・キイス文庫(1999)
1982年夏、作家ダニエル・キイスは、分裂病の病歴をもつ若く美しい女性の訪問を受けた。彼女の名はクローディア・ヤスコー、4年前に連続殺人事件の容疑者として逮捕されたが、のちに無実であることが判明し、釈放された人物だった。彼女はキイスに、今こそ事件の真相を語るから、それを本にしてほしいと依頼してきたのだ。クローディアには、ひとつの大きな謎があった。警察の取り調べに対し、彼女は殺人が起きたときの状況を詳しく自白している。なぜ彼女は、犯人しか知るはずのない事実を知っていたのか。隠された真実を探りだすため、キイスはクローディアの病んだ精神の迷宮へと踏みこんでゆくが…。人間心理の深奥をひたむきに描きつづける作家キイスが、分裂病の知られざる世界を解明すべく自ら乗りだし、その一部始終をつづったファン待望の作品。多重人格の驚異を描いたベストセラー『24人のビリー・ミリガン』につつぐ、驚愕の心理ノンフィクション。

1993

Daniel Keyes Collected Stories

心の鏡 (ダニエル・キイス文庫)

「心の鏡」
稲葉明雄+小尾芙佐訳 早川書房(1993)/ダニエル・キイス文庫(1999)
言葉を使わずに心と心で会話ができるテレパスの少女、心で物体を自由に操るテレキネシス能力をもつ少年――。弁護士デニスは、そうした並はずれた能力をもつ子供たちを探しだし未来に送りだしていた。恐るべき能力をひめた少年マロと弁護士の運命的な出会いを描く表題作「心の鏡」、傑作長篇『アルジャーノンに花束を』の原型でヒューゴー賞を受賞した中篇版「アルジャーノンに花束を」、人類のために難問を解決するべく作られた万能コンピュータ、エルモの引き起こす大騒動をユーモラスに描く初期の短篇「エルモにおまかせ」、不幸な境遇に育った少女ヴィーナと母ローダとの関係を描く「ママ人形」など、傑作短篇7篇を収録。
Preface「序文」/The Trouble with Elmo「エルモにおまかせ」/The Quality of Mercy「限りなき慈悲」/A Jury of Its Peers「ロウエル教授の生活と意見」/Flowers for Algernon「アルジャーノンに花束を」/Crazy Maro「心の鏡」/The Spellbinder「呪縛」/Mama's Girl「ママ人形」

1998

Until Death Do Us Part

眠り姫〈上〉 (ダニエル・キイス文庫)

「眠り姫」
秋津知子訳 早川書房(1998)/ダニエル・キイス文庫(2000)
病院のベッドで、もう何日も眠り続けているキャロル・クレイ。31歳になる彼女は、幼いころから「眠り姫」と呼ばれていた。それは彼女が、いつ、どこで、何をしていても突然眠ってしまう原因不明の奇病、睡眠障害にかかっていたからである。その発作によって、彼女はいま深い眠りの底にいた。キャロルが眠っているあいだに、彼女のまわりでは恐ろしい事件が起きていた。娘のエレナが、ボーイフレンドとともに死体で発見されたのだ。その数日後、キャロルは突然、眠ったまま驚くべき物語を語りはじめる。「二人を殺したのは夫のロジャーだ」と。だが、優秀な精神科医アイリーンは、キャロルの言葉に疑いをもつ。精神療法家としての技術を駆使して、アイリーンはキャロルの心に隠された真実を探りはじめたが…。やがて明らかになる、想像を絶する真相とは。

2000

Algernon, Charlie and I

アルジャーノン、チャーリイ、そして私 (ダニエル・キイス文庫)

「アルジャーノン、チャーリィ、そして私」
小尾芙佐訳 早川書房(2000)/ダニエル・キイス文庫(2005)
パン屋の見習い、医学生時代の経験、商船乗組員だった航海の日々、そしてチャーリイのモデルとなった少年との出会い…波瀾の半生を経て『アルジャーノンに花束を』を書き始めたとき、キイスが胸に抱いていた思いとは?そして、この作品が短篇から長篇に磨き上げられていった経緯とはどのようなものだったのか?独自の文学論や人生観を織り込みながら、いまや世界中で読まれているベストセラーの誕生秘話を著者自らが語る。

2009

The Asylum Prophecies

預言 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

「預言」
小尾芙佐訳 早川書房(2010)
若く美しく心を病んだ一人の女性、レイヴン・スレイド。無力な入院患者であった彼女の運命は、偶然に彼女の記憶に封じ込められたテロリストの預言めいた暗号により激動の渦へと投げ込まれる。暴走する精神を苛む妄想と恐怖症。テロリストたちの狂気に満ちた暴力と洗脳。正義の名の下にふるわれる非情な公権力。愛してはいけない者との禁断の愛。心の奥深くに埋もれた悪夢のごときトラウマ。自らを追い詰め、束縛するすべてのものから逃れ―レイヴンは自由の空へ、飛び立つことができるのか。病める個人と時代を見つめ続けてきた作家、ダニエル・キイスが、一人の女性の魂の苦境に9・11以後の狂い、壊れていく世界を映し出す、唯一無二の物語。



Web Links

  1. ウィキペディア
  2. Internet Speculative Fiction Database